ストラディヴァリウス・コンサート

アントニオ・ストラディヴァリウス15丁!を聴く!
久我ヴァイオリン工房、工房長(一人しかいない!)の仕事は、聴くこともヴァイオリン創りの、大切な仕事です。
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昨日は、ストラド15丁の豪華なコンサートを聴く。
場所は サントリーホール、席は2階LD5列8番 S席

2階の真後ろ横、舞台に向かって左(left)最後列の前。
音は、どに楽器も ここまで大きく聞えた。
音色も、その差、個性が分かりました。また年代も、勉強になりました。


日本音楽財団創立35周年記念
ストラディヴァリウス・コンサート
日本音楽財団所有の名器のうち14のストラドと使用演奏家ほかのストラド計15丁によるコンサート。
ヴァイオリン ×10、  ヴィオラ× 2  チェロ× 3
楽器1丁、1丁の年代による音質、個性が分かる、そして結果としてストラディヴァリウスの音の特徴がトータルで分かる、貴重なコンサートでした。

昨年のストラディヴァリウス・サミット コンサートは、沢山のアンサンブルでしたので、一つ一つの音が分からなく製作者としては、今回は苦労してチケットを取って良かったと思いました。
一度に、沢山の同じ製作者の楽器を聴くと、その個性、特徴が分かるものです。
ストラディヴァリウスの音は、これだ!これだ!これでもか!…と満載でした。 なによりも満足でき、至福の一時でした。
コンサート前に白ワイン1杯,休憩に赤ワイン1杯、終わってから赤ワインいっぱい!、


特に、高音は1717年のSassernoが音は立っていて、張りと、気品がある美しい音が届いた。
最晩年の1736年のMuntzは、低音が、そのパワーが強く伝わった。
1725年のWilhelnjは、高音、低音のバランス良く 伝わった。

1731年のViola Paganiniは、Cremonaのポンキエッリ劇場や、青葉台の???ホールで聞いた音と印象は、違ったが、
やはり滑らかな美しい低音は、広がった。

①Viviane Hagner ……   1717 violin ‘Sasserno’
②Yuki Manuela Janke…・・    1736 violin ‘Muntz’
③Sergey Khachatriyan…・・    1708 violin‘Huggins’
④Erik Schumann …・・    1722 violin ‘Jupiter’
⑤Sayaka Shoji……     1715 violin‘Joachim’
⑥Baiba Skride…・・ 1725 violin‘ Wilhelmj’
⑦Arabella Miho Steinbacher…・・ 1716 violin ‘Booth’
⑧Kyoko Takezawa…・・ 1710 ‘Camposelice’
⑨Danjulo Ishizaka…… 1696 cello ‘Lord Aylesford’
⑩Steven Isserlis…・・ 1730 cello‘ Feuermann’
《Tokyo String Quartet》
⑪Martin Beaver…… 1727 ‘Paganini’
⑫Kikuei Ikeda…・・ 1680 vaiolin ‘Paganini’
⑬Kazuhide Isomura…… 1731 viola ‘Paganini’
⑭Clive Greensmith …… 1736 cello ‘Paganini’
⑮英国王立音楽院所有…・1696 viola  アーキント
   Michio Kobayashi…・・ Harpsichord
   Akira Eguchi ……Piano

1717 Sasserno/Viviane Hagner


1736 Muntz/Yuki Manuela Janke


1708 Huggins/Sergey Khachatryan


1722 Jupiter/Erik Schumann


1715 Joachim/Sayaka Shoji


1725 Wilhelmj/Baiba Skride


1716 Booth/Arabella Kiho Steinbacher


1710 Camposelice/Kyoko Takezawa


1696 Lord Aylesford cello/Danjulo Ishizaka


1730 Feuermann cello/Steven Isserlis


1727Vn Martin Beaver / 1680 Vn Kikuei Ikeda / 1736 Vc Clive Greensmith / 1731 Va Kazuhide Isomura

曲目は…
ヴィヴァルディー4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調 作品3 第10番RV580
ソリスト:竹澤恭子(1st)、庄司沙矢(2ed)、エリック・シューマン(3ed)、セルゲイ・ハチャトリアン(4th)、石坂団十郎(cello)
オケ:  アラベラ・美歩・シュタインバッハー(1st)、バイバ・スクリデ(2ed)、ヴィヴィアン・ハグナー(3ed)、有希マヌエラ・ヤンケ(4th)、マーチン・ビーバー(viola)、スティーヴン・イッサーリス(cello *2ed viola part)、クライブ・グリーンスミス(cello)、小林道夫(harpsichord)

カールフィリップ・エマヌエル・バッハ
チェロ協奏曲 イ短調 第ニ楽章 Wq172
ソロ: 石坂団十郎
オケ: 庄司沙矢香(1st)、竹澤恭子(2ed)、マーティン・ビーヴァー(viola)、クライヴ・グリーンスミス(cello)、小林道夫(harpsichord)

J・ヴィートリス
ロマンス(ラトヴィアの楽曲)
 バイバ・スクリデ、江口玲

E・バグダサリャン
 ラプソディー(アルメニアの楽曲)
セルゲイ・ハチャトリアン、江口玲

クロード・ドビュッシー
弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 第三楽章
東京クヮルテット

ヒューベルト・レオナード
3つのヴァイオリンとピアノのためのスペイン・セレナーデ
バイバ・スクリデ(1st)、ヴィヴィアン・ハグナー(2ed)、有希マヌエラ・ヤンケ(3ed)、江口玲(piano)

ヨハン・セバスチャン・バッハ
2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
Ⅰ.Vivace  Ⅱ.Largo ma non tanto   Ⅲ.Allegro
ソリスト:  ヴィヴィアン・ハグナー(1st)、アラベラ・美歩・シュタインバッハー(2ed)
オケ:  エリック・シューマン(1st)、竹澤恭子(2ed)、マーティン・ビーヴァー(viola)、スティーヴン・イッサーリス(cello)、小林道夫(harpsichord)

エロネスト・ブロッホ
ユダヤ人の生活から
スティーヴン・イッサーリス、江口玲

フェリックス・メンデルスゾーン
弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20
Ⅰ.Allegro moderato,ma con fuoco
Ⅱ.Andante
Ⅲ.Scherzo.Allegro leggierissimo
Ⅳ.Presto
ヴィヴィアン・ハグナー(1st violin)、庄司紗矢香(2ed violin)、アラベラ・美歩・シュタインバッハ-(3rd violin)、有希マヌエラ・ヤンケ(4th violin)、磯村和英(1st viola)、池田菊衛(2ed viola)、スティーヴン・イッサーリス(1st cello)、クライヴ・グリーンスミス(2ed cello)


かなり離れた距離から聞いた感想は…

1717は低音が普通の音量に、高音が 極めて美しくかった。
1725くらいは、高音も低音も平均をとったのか、バランスが良く感じられた。
1736年は,低音の迫力がすごかった!
聞く距離で、聞こえる感覚は、まったく異なります。
1715以降くらいから、バスサイドが、薄くなり、低音が強くなることが、音から感じられた。
正真証明のストラドは、やはりストラドに共通した音質であった。
1丁1丁の音を聞くことが出来、忘れかけていた音色は、新鮮に記憶にインプットでき、製作者にとっては、大きな収穫であった。
しばらく、他の音は聴かないようにこころかけよう!

演奏家に聞えている音と、私達が聴いている音は、かなり違う感触を受ける。

そのことは、プログラムに、ベルリンフィルのコンサートマスターの安永徹さんが書いている。同音楽財団から1702のストラド「ロード・ニューランズ」を貸与され使用している
そのストラドの感想を 私とまったく同じに感じていらっしゃるので、原文通り……

「ストラディヴァリが製作した名器は何をしなくてもバターが滑らかに溶けるように素晴らしい音が出る」時々耳にする言葉ですが、私が「ロード・ニューランズ」を実際に弾いた感覚から受けた印象は、ずいぶん違ったものです。
遠くで聴く音と耳のそばで聴く音は音量だけでなく音色まで違うのだ、ということを実感しますが、何と言っても「楽音」ではない「雑音」のような音が多く含まれていることは想像もしなかったことです。川が流れるような音、風の音、時には電話のベルが鳴っているような音、人間の声…・・いろいろな「音」が聞えるねです。「音」が聞えるので弾くのをやめてもそこには何もないのです。
楽器から出た音としか考えられない…信じられないようなことですが、実際に私自信体験していることです。
楽音以外の音は倍音に違いないのですが(もちろん、どんな楽器にも倍音はあります)、その種類が他の楽器に比べてとても多く、音量も大きいので最初の頃は戸惑ってしまいました。今でも一人で練習している時勘違いすることが多くあります。
この倍音(至近距離では雑音に聞える音)が、演奏会で聴いている方々に音色として届くのだと思います。 他にも、重音で奏した時のうなり(2つの音の振動の差から派生する音で実音ではありません)の音も大きく、「ロード・ニューランズ」 ニ限らず、おそらくストラディヴァリウスやその頃に製作された名器が備えている特色の一つと言えるのかも知れません.
あとは、その特色を音楽の中に生かすことができるかどうか、演奏家に委ねられた大きな課題です。

このことは、私がブログに書いている、弾いている人が聴いている音と、聴く人の音が違うことを、体験から書かれていましたので、そのまま書いてみました。

私が作るヴァイオリン「名器」ではなく「名器」を目指して製作していますが、音にジーというような、シャーというような雑音に近い、細かな倍音がでるように創っています。 その音が 思ったように出せたら、その楽器は成功と思っています。
細かな、緻密な倍音がでるように、なるべく厚さや音程の再現に努めています。 名器もそうなっているからです。
ピエール・アモイヤルさんの1717 ストラディヴァリウス・コチャンスキーは、E線に指が触れた時の音の振動自体が、反応の速さとジーという感触さえかんじました。ほんの少し触れただけで、楽器が反応しているんです。他の楽器のE線に触れたときとは、全然違いました。
しかし、その音は、弾く人には、イメージして聴く音とはかなり違うので 安永さんがおっしゃっているように「楽音」ではないので人によっては心地よくないかもしれません。 「楽音」ではない…的確な表現です。
私がストラディヴァリを弾いた、いや音を出した時にも、そのいろいろな倍音は経験しています。
いろいろな音の香りがするとも言われます。

しかし、弾いている時、コンサートで聞える音と同じ音を聴きながら 心地よく弾けると、誰もが思うと思います。
演奏会で使うヴァイオリンを選ぶ時は、そういう楽器もあることを 知っておいたほうが良いと思います。
自分が楽しむためなのか、聴衆に感動を与える音が必要なのか…・
その、ほとんど雑音に似た倍音は、慣れると、その音は 沢山の倍音が詰まっているように感じられ、ここちよい 良い音だと感じるようになります。
私には、その雑音?は 「快音」で、とても ここち良い音です。

楽器屋さんの展示会で名器が、試奏できる時は、そんなことを考えながら試奏をして ぜひ体験してみてください。


コンサートの音から、ストラディヴァリウスの製作の内側を探る…・
あの音色は、板が厚くては、決して出ない音です。
ヴァイオリンの板は、オールドヴァイオリンの創り方から、中央の厚さ(強さ)と渕の厚さ(強さ)は、大きな関係があります。

楽器を良く鳴るように、共鳴させるには、同じ強さに近い必要があります。
表、裏の中央が薄いとしたら、横板も、渕も同じくらいの強さの厚さでなければなりません。
しかし、ストラディヴァリのように、表・裏の中央が薄い場合、渕もそれに見合った薄さにすると、箱は弱くなってしまいます。

サッコーニさんは、ストラディヴァリウスは板の強化に葡萄の枝を燃やした灰を使ったらしいと書いています。
珪酸カリウムが含まれていて、実際に板の強化が できます。
ストラディヴァリが、本当にそれを使ったかもしれませんが、私は他のもののように思います。
しかし、なんらかの方法で、強化し、軽く、薄くするために、音響に良い方法で強化していないと、出てこない音であることは、今更ながら確信させられました。

普通の厚さで、いくら創っても、あの音にはならないと思いました。
今、そのことに実験しながら 取り組んでいます。 どれくらい強化できて、音響にどうか!?

私の場合は、厳選した軽く強い材料で、アーチの強度を考え、創っています、ある程度薄く創れますが、それ以上に薄くするには、強化が必須です。

強いから、薄く創れる…薄くても強い・・・

普通の板で、普通の厚さで もし、極めて素晴らしいヴィオリンが出来たとしても、300年経って、名器になったとしても、ストラディヴァリウスの音には、残念ながらならない確率が高いはずです。 300年後は生きていないので、分かりませんが、木が良く乾燥して、鳴り易くはなったとしても、調子が合っていない箱は、共鳴しだすことは まずありえない…と考えます。
ヴァイオリンは奥が深いです…・・

(サントリーホール好き)
サントリーホールは、大好きなコンサートホールです。雰囲気が明るく、空気がオ-プンでスペースにゆとりがあり、音楽を聴く前に、こころが楽しくなります。ステージの後ろP席は、オーケストラでは指揮者の指揮ぶりが,近くからみられる。 かつて アッバード、ラトル、ムーティ、の音楽を聴いた! 良いホールです。

尚、プログラムのストラドの写真は、写真家の横山進一氏による 素晴らしい写真でした。
・・・・・・・・・cremonakuga violino 久我ヴァイオリン工房・・・・・・・
by cremonakuga | 2008-09-10 12:39 | ◆ヴァイオリン・コンサート | Trackback | Comments(0)
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